難民支援ボランティア体験談

難民支援における信頼関係の構築:言葉の壁を超え、心を通わせるための実践と葛藤

Tags: 信頼関係, コミュニケーション, 文化理解, モチベーション維持, ボランティア体験談, 心のケア

難民支援における信頼関係の重要性と初期の戸惑い

難民支援活動において、支援対象者の方々と信頼関係を築くことは、その後の支援の質を大きく左右する重要な要素であると常々感じております。しかし、言葉の壁、文化の違い、そしてこれまで彼らが経験されてきた苦難の歴史を考えると、その道のりは決して平坦ではありません。私も活動を始めた当初は、どのようにすれば心を開いていただけるのか、適切な距離感とは何か、といった点で多くの戸惑いを覚えました。

この記事では、私が難民支援活動を通じて経験した信頼関係構築の具体的なエピソードと、その中で直面した困難や葛藤、そしてそこから得られた学びについて率直にお伝えしたいと思います。

最初の出会い:言葉が通じない中での距離の模索

私が初めてある家族と出会ったのは、彼らが日本に到着して間もない時期のことでした。支援団体を通じて生活立ち上げのサポートに入ったのですが、ご家族はまだ日本の生活に不慣れで、表情にも緊張の色が見られました。特に言葉の壁は大きく、私の片言の英語と通訳アプリを介してのコミュニケーションは、時に誤解を生み、沈黙が続くことも少なくありませんでした。

当初、ご家族は私に対してある種の警戒心を抱いているように感じられました。これは当然のことで、見知らぬ文化の国で、見知らぬ人物が急に生活の中に入ってくる状況を考えれば、心を開くまでに時間が必要であることは理解できます。私は焦らず、まずは挨拶を欠かさず、笑顔で接することを心がけました。また、具体的な支援活動(市役所での手続きの同行、病院への送迎など)を通じて、約束を守り、責任感を持って接する姿勢を示すことに注力しました。

言葉が通じなくとも、共感を示すことは可能です。例えば、初めて日本のスーパーマーケットを訪れた際、陳列されている食品に戸惑うご家族に対し、私も初めて海外のスーパーに行った時に同じような感覚を覚えたことを、身振り手振りを交えながら伝えました。すると、ご家族の表情に少しだけ和らぎが見られ、これが小さな一歩となったように記憶しています。

信頼が深まる過程と直面した葛藤

活動を続ける中で、少しずつではありますが、ご家族との間に信頼の絆が芽生え始めたことを実感する瞬間が増えていきました。ある日、お子さんが学校での出来事を身振り手振りを交えながら熱心に話してくれたり、お母さんが故郷の料理を振る舞ってくださったりした時など、心の距離が縮まったことを感じ、大きな喜びを覚えました。それは、私が「支援者」としてではなく、「友人」として受け入れられ始めた証のように思えました。

しかし、信頼が深まるにつれて、新たな葛藤も生じました。ご家族が生活上のあらゆる問題について私に相談を持ちかけるようになり、時に私自身のプライベートな時間や精神的なキャパシティを超える要求をされることもありました。例えば、夜遅くに緊急ではない用事で電話がかかってきたり、私の専門外の支援を求められたりするようなケースです。

このような状況で私は、一体どこまで応えるべきなのか、というジレンマに直面しました。全てを受け入れてしまうと、私は燃え尽きてしまうかもしれませんし、ご家族の自立を阻害する可能性もあります。一方で、期待に応えられないことに罪悪感を感じることもありました。

この葛藤を乗り越えるために、私は「境界線(バウンダリー)」を設定することの重要性を痛感しました。支援者としての役割と、個人としての生活を明確に区別し、何ができて何ができないのかを、ご家族に丁寧かつ明確に伝える必要がありました。それは簡単なことではありませんでしたが、信頼関係があるからこそ、正直に伝えることが大切だと信じました。もちろん、その際には相手の気持ちを傷つけないよう、言葉遣いやタイミングには細心の注意を払いました。

言葉の壁を越える工夫と心のケア

言葉の壁は、難民支援において常に存在する課題です。私が実践してきた工夫としては、以下のようなものがあります。

また、支援者自身の心のケアも非常に重要です。特に信頼関係が深まる中で、相手の苦しみや困難を共有することになり、精神的な負担を感じることも少なくありません。私は、他のボランティア仲間との定期的なミーティングや情報交換を通じて、自分の感情を共有し、客観的なアドバイスをもらうことで、心のバランスを保つように努めました。一人で抱え込まず、支援団体や専門家を頼る勇気も必要です。

モチベーション維持のヒント:小さな変化を見つける喜び

難民支援活動は、すぐに目に見える成果が出るとは限らず、時に無力感に苛まれることもあります。しかし、信頼関係が構築され、ご家族が少しずつ日本の生活に慣れ、笑顔が増えていく姿を見る時、この活動の大きな意味を感じることができます。

モチベーションを維持するためには、以下のような視点を持つことが役立ちました。

結びに:終わりなき学びの旅

難民支援における信頼関係の構築は、一度築けば終わりというものではなく、常に変化し、学び続ける過程であると私は考えております。言葉の壁、文化の違い、そして個々の経験の違いを乗り越え、心を通わせるためには、時間と忍耐、そして何よりも相手への深い敬意と理解が不可欠です。

この活動を通じて、私は多くのことを学び、人間としての視野を広げることができました。困難に直面しながらも、小さな希望を見つけ、互いに支え合うことの大切さを実感しています。この体験談が、現在難民支援活動に携わっておられる方々、あるいはこれから活動を始めようとされている方々にとって、少しでも具体的なヒントや共感のきっかけとなれば幸いです。